虚々実々徒然草

五十代半ばの男性車椅子生活者の日記です。

平和なり

平和なり午前五時過ぎ窓開けてあをき空気を胸深く吸ふ

朝起きてまずパソコンを起動さすけふも君よりメールあるかと

艶めかしき裸婦の画像の消え失せずどのアイコンをクリックしても

パソコンがにつちもさつちも起動せず三分前まで動いてゐしが

通常の保守点検を怠りてつひに動かずなりしパソコン

うた詠まずネットサーフィン愉しみし罰かパソコンつひに故障す

パソコンが疲れ果てたと言ふ声かモーター音がすれど起動せず

五年前の初夏の『短歌』作品です。如何。

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人魚

泥水に溺れてゐたりこんな夢現実にゆめ起きないでくれ

ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年

初春から縁起良きかな吾が引きし御籤に大願成就とあるは

最高の正月三日ぞま乙女の姪が弾きゐマンドリン聴く

君も吾も人魚になりてきらきらと海に戯るわれの初夢

雨もまた良いもんだねと笑みて言ふ雨に濡れつつ訪ね来し友

のやうな歌を詠んだら良いだらう迷ふ愉しさわれにまだある

最近の『短歌』作品です。如何。

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プラタナス

つぶら実の音符のやうなプラタナスららばいららばい雨に眠れる

渇水の湖いくつ土石流犠牲者生みて梅雨深みゆく

泥水に溺れてゐたりこんな夢現実にゆめ起きないでくれ

ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年

産土に歌詠みわれは誓ひたり己が心に素直に詠むと

初春から縁起良きかな吾が引きし御籤に大願成就とあるは

帰省せしわれに聞かすとマンドリン姪が弾くなり正座して聴く

マンドリンに姪が弾くなる「異邦人」口遊みつつ愉し正月

最高の正月三日ぞま乙女の姪が弾きゐるマンドリン聴く

君も吾も人魚になりてきらきらと海に戯るわれの初夢

名古屋弁でお久しぶりの「やつとかめ」言ひつつをらむ天国で伯母は

「雨もまた良いもんだね」と笑みて言ふ雨に濡れつつ訪ね来し友

きらめきの天使と雪を詠みにけり雪の怖さを知らざるわれは

どのやうな歌を詠んだら良いだらう迷ふ愉しさわれにまだある

歳晩の施設の門に見送りぬ里帰りする君の背中を

幸せと言へば言へるか仲間らとまた介護士と初日を拝む

自らの衰へばかり呟けり正月二日の電話に母は

電話にて母の愚痴聴くそれのみが施設暮しのわれの孝行

最近の『短歌』作品です。如何。

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不確実の明日

沈丁花匂ふ夕暮れ見つめ合ふわれらに時はうたた寝始む

風神の唸りに応へ雷神が雹降らせたりけふ春一番

まつたりと午後の陽を浴む雛の日の雌雛雄雛の如くにわれら

晴れながら雪降り始む鎮魂の三月十一日午後二時四十六分

汝れも吾も不確実の明日信じつつ笑顔に交す おやすみなさい

さくら木の蕾ふくふく膨らめり恋に励めと囁くやうに

うた詠めといざなふ如し汝が頬のうすくれなゐのけふの夕映

昨年の早春の『短歌』作品です。如何。

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冬が始まる

外出時にマスク着用の義務が増えここの施設の冬が始まる

喪を知らす友のふみ来つ山茶花山茶花梅雨の降り注ぐ午後 

駅前のベンチに握り飯喰へば足元に来つさすらひ鳩が

新しき低床市電に揺られつつ小春日和の豊橋をゆく

乗降客をらぬ前畑停留所扉開けざるまま発車せり

福祉学ぶ日焼け少年校庭で我武者羅にわが車いす押す

福祉学ぶリボン少女よ校庭をおつかなびつくり車いす押す

最近の『短歌』作品です。如何。

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疑問符

そそくさと彼岸へゆきしMさんの微笑の如しさくらほころぶ

人生は一期一会の積み重ね いま、Yさんと淡雪を浴ぶ

誕生日プレゼント選る囀りに似る笑ひ声想ひつつ選る

ばさりばさりバリカンに刈られゆく髪や白髪混りのこの冬の鬱

わが想ひ君になかなか通じ得ずけさもどんより曇つてゐます

プレゼント拒まれてただ疑問符が生れては消え消えては生れ

付き合ひはこれからこれからプレゼント受け取りし汝が笑み美しき

昨年の四月、『彼女(妻)』との最大の『危機』の頃の『短歌』作品です。如何。

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五里霧中

失せてゆく若さにあらむカツ丼のあとひと口のカツ食べ余す

日光川越えて稲田のあを眩し青塚発ちしわが鈍行は

ヘルパーをけふ八時間頼みたり鈍行列車の旅がしたくて

菅井きんに似たる媼がだんご焼く路地の軒先ああ秋だなあ

デーサービスの誕生会が楽しみと傘寿迎ふる母のほほ笑み

にこやかに君とさよなら交したるその夜の夢に君が立ちたり

試行錯誤、一喜一憂、五里霧中 自立へのわが夏の総括

年明けて以来、『彼女(妻)』とうまく行っていません。まさに、きょうの『タイトル』の『五里霧中』状態です。嗚呼。

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笹飾り

明日はきつと雨降るだらう 右の手の小指冷たし昼過ぎてより

つぶら実の音符のやうなプラタナスららばいららばい雨に眠れる

エレベーターに地上に着きぬそこはもうあをき潮風吹く名古屋港

黙しつつ汝れと見てゐる翻車魚が飼育員より餌啄むを

存分に孤を愉しむか水槽の底にぬらぬらうごめける蛸

長老の面構へして動じざり大水槽の底にゐるクエ

笹飾りその短冊に見つけたり 啓志の本音聞かせてよ ゆな

一昨年の夏の『短歌』作品です。最後の一首を作った後、『彼女(妻)』と心の『契り』を交した次第です。如何。

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すみれ色の小箱

ねえあんた最近、短歌作つてる? Yさんからのキツいひと言

この雪は春を呼ぶ雪 みづ色の空よりひとひらみひらはらはら

彼の国にまた殺戮の報ありて散華の雪の降り止まぬかな

あんたのさ優柔不断が嫌ひなの ひとこと言ひてだんまりの汝れ

すみれ色の小箱が朝の卓にありバレンタインの汝がサプライズ

大切に思ひて呉るる君を得て五十三歳の春を迎へつ

ほほ笑みの絶えぬ介護士身籠りて施設去るとぞけふを限りに

これらの『短歌』作品は、昨年のバレンタインの作です。如何。                  

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逢ひたくて

生きてゐる証しと寧ろよろこびぬ目覚まし時計のごとき腰痛

年長のルームメイトの寝息聞えつくづく寂し寒露の夜更け

Nさんに十年ぶりに逢ひたくてメールを送るただ逢ひたくて

逢ひたしとメールを送るまんまるの君の笑顔を思ひ浮べて

さう言へばきのふが母の誕生日何も贈れず母さんごめん

木犀の香に思ひ出づ産土の八幡神社の秋祭りけふ

十超ゆる迷惑メールに混りつつけさ見つけたりNさんの名を

これらの『短歌』作品は、四年前の秋の作です。如何。

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