虚々実々徒然草

五十代半ばの男性車椅子生活者の日記です。

佳久徒然草

風の咆哮

何もせずけふを過してしまひたるわれを叱るか風の咆哮 女好き優柔不断の性格をもてあましつつけふも生きゆく きのふより青まばゆしと元日の空眺めをり頬寄せ合ひて 穏やかに年迎へたるめでたさを分ち合はむと母に電話す 妹がしたためくれし嘉の一字その筆勢…

勇猛果敢

あすはまたあすの幸せ来るはずよ夕焼け空を見つつ君言ふ 優しくて勇猛果敢のわれをらむひろき宇宙のどこかの星に 夢に来て電話番号教へ呉れしロシア乙女よ名はカトリーナ 車椅子を汝が押し呉れてさ緑の風吹き渡る犬山をゆく 二十日ぶりに昼を雨降る諸木々に…

夢の御告げ

酒酌みて人生論を闘はす十年ぶりに会ひたる友と 施設での叶はぬ恋を告白す幼馴染の友と飲みつつ 旧友も胡麻塩頭となりにけりすぐそこにまで迫る五十代新しき歌集作れとけふもまた師は言ひ賜ふぜひ挑みたし 九月より大晦日までモテ期とぞ夢の御告げを信じてみ…

はないちもんめ

憎しみを生むばかりなる戦ひを支援するなど以ての外だ 二メートル隔て互みに雨を見る 和解の言葉いつ掛けやうか あんたなんか下の下の男それなのに何か気になる はないちもんめ きのふ夜叉、けふは子猫のやうな汝れ 千変万化をむしろ愉しむ Tシャツの汝が腕…

人造の闇

行き先は夏の港ぞ人造の闇突つ走る列車に揺られ 人造の闇に轟き止まずして港に向ふわれが列車は 地下鉄に約十五分揺られつつどちらが北か分らなくなる 名古屋港ガーデン埠頭に汝れと来て胸深く吸ふあをき潮風 アクアリウムのチャップリンなり飄々と大水槽を…

夕潮にほふ

けふもまた体温超えの暑さなり雨足らぬまま梅雨明けて、夏 ひとしづくまたひとしづく肩に落つ車椅子押すヘルパーの汗 シキソクゼクウクウソクゼシキ地下鉄の向ひの席のま乙女の腿 麻痺の吾も一票投ずヘルパーの友がひた推す女性候補に 奢るからビアガーデン…

人生樹海

ねむりへと連れ戻さるる抑揚ぞN介護士のモーニングコール 父逝きて七度目の夏迎へつつ人生樹海さまよふばかり ちちのみの彼岸の父よこれからのわれが航路を御示し給へ 願はくば酒酌み交し亡き父と人生論を語り明かさむ どしや降りの石くれ道を迷ひつつ迷ひ…

堂々巡り

堕天使か痴女か天女か短夜の夢に現れ手招く女人 十日後に逢ふを約せりNさんと三年ぶりに逢ふを約せり 君と逢ふその悦びに眠られず三時ああ四時また寝返りす 母校へと向はむとして迷ひつつ堂々巡りの暁の夢 約束の場所に君来ず五分過ぎまた十分と時ゆくばか…

白き雲

白き雲空にぽよんと浮びつつ無性に眠し立冬の午後 五十歳の吾はまだ信ず相性のぴつたりと合ふ女性がゐると 相次ぎてふたりの姉を亡くしたる寂しさをまた呟ける母 あすもまた新たな出会ひがあるだらうそれを信じてさあ眠らうか 宇宙には地球そつくりの星在り…

城山の樹々

城山の樹々の緑の眩しもよ木曽川よりの風を受けつつ 脳内に居座る鬱が消えてゆく木曽川よりの風に吹かれて われといふ摩訶不思議なる多面体けふは歌詠み啓美に候 午前二時襲ふ尿意に目覚めたり介護士を待つ長き長き五分 歌詠みが一首も詠まず床に就く雨のき…

平和なり

平和なり午前五時過ぎ窓開けてあをき空気を胸深く吸ふ 朝起きてまずパソコンを起動さすけふも君よりメールあるかと 艶めかしき裸婦の画像の消え失せずどのアイコンをクリックしても パソコンがにつちもさつちも起動せず三分前まで動いてゐしが 通常の保守点…

人魚

泥水に溺れてゐたりこんな夢現実にゆめ起きないでくれ ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年 初春から縁起良きかな吾が引きし御籤に大願成就とあるは 最高の正月三日ぞま乙女の姪が弾きゐるマンドリン聴く 君も吾も人魚になりてきらきらと海に…

プラタナス

つぶら実の音符のやうなプラタナスららばいららばい雨に眠れる 渇水の湖いくつ土石流犠牲者生みて梅雨深みゆく 泥水に溺れてゐたりこんな夢現実にゆめ起きないでくれ ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年 産土に歌詠みわれは誓ひたり己が心に…

不確実の明日

沈丁花匂ふ夕暮れ見つめ合ふわれらに時はうたた寝始む 風神の唸りに応へ雷神が雹降らせたりけふ春一番 まつたりと午後の陽を浴む雛の日の雌雛雄雛の如くにわれら 晴れながら雪降り始む鎮魂の三月十一日午後二時四十六分 汝れも吾も不確実の明日信じつつ笑顔…

冬が始まる

外出時にマスク着用の義務が増えここの施設の冬が始まる 喪を知らす友のふみ来つ山茶花に山茶花梅雨の降り注ぐ午後 駅前のベンチに握り飯喰へば足元に来つさすらひ鳩が 新しき低床市電に揺られつつ小春日和の豊橋をゆく 乗降客をらぬ前畑停留所扉開けざるま…

疑問符

そそくさと彼岸へゆきしMさんの微笑の如しさくらほころぶ 人生は一期一会の積み重ね いま、Yさんと淡雪を浴ぶ 誕生日プレゼント選る囀りに似る笑ひ声想ひつつ選る ばさりばさりバリカンに刈られゆく髪や白髪混りのこの冬の鬱 わが想ひ君になかなか通じ得ず…

五里霧中

失せてゆく若さにあらむカツ丼のあとひと口のカツ食べ余す 日光川越えて稲田のあを眩し青塚発ちしわが鈍行は ヘルパーをけふ八時間頼みたり鈍行列車の旅がしたくて 菅井きんに似たる媼がだんご焼く路地の軒先ああ秋だなあ デーサービスの誕生会が楽しみと傘…

笹飾り

明日はきつと雨降るだらう 右の手の小指冷たし昼過ぎてより つぶら実の音符のやうなプラタナスららばいららばい雨に眠れる エレベーターに地上に着きぬそこはもうあをき潮風吹く名古屋港 黙しつつ汝れと見てゐる翻車魚が飼育員より餌啄むを 存分に孤を愉しむ…

すみれ色の小箱

ねえあんた最近、短歌作つてる? Yさんからのキツいひと言 この雪は春を呼ぶ雪 みづ色の空よりひとひらみひらはらはら 彼の国にまた殺戮の報ありて散華の雪の降り止まぬかな あんたのさ優柔不断が嫌ひなの ひとこと言ひてだんまりの汝れ すみれ色の小箱が朝…

逢ひたくて

生きてゐる証しと寧ろよろこびぬ目覚まし時計のごとき腰痛 年長のルームメイトの寝息聞えつくづく寂し寒露の夜更け Nさんに十年ぶりに逢ひたくてメールを送るただ逢ひたくて 逢ひたしとメールを送るまんまるの君の笑顔を思ひ浮べて さう言へばきのふが母の…

法子さん

歌詠むに倦みたりそんなおいらにはネット動画といふ逃げ場ある 車椅子の五人のわれら冬陽浴みいつかおぼろになりゆく会話 豆腐屋の喇叭聞えて来さうなり霜月六日の夕あかね空 しづけさや伊自良の里の汝が家の縁を移ろふわた雲の影 この秋に傘寿迎へし母が言…

月の冴ゆ

中天に蒼皓々と月の冴ゆ恋失ひし彼の夜の如く 常滑の路地裏巡る一頭の青すぢ揚羽に導かれつつ このカフェの丁髷姿のまねき猫 柴山庄山わが伯父の作 八十二歳あした迎ふるおふくろに何贈らむと迷ふ愉しさ 誕生日に靴下贈る繰り返し脚冷えるのと愚痴言ふ母に …

宵宮囃子

あさつては氏神様の祭礼か木犀の香にふとふと思ふ 秋雨の降りゐる午後を電話すもけふ八十を迎へし母に 村祭りに来よと電話に母言ひて 茹で豆・搔揚げ・寿司の団欒 産土の宵宮囃子聞きにけりひと月ぶりの母の電話に ぎこちなくわが車椅子押し呉れつ福祉学ぶと…

初電話

旧友は自立促すこれからがわが青春と思へば良いと 自立への意志強く持てまず動け 熱く熱く説く旧友Yは 自力では入浴できなくなりし母デイサービスの利用決めたり 初電話に母の声聴く次週よりデイサービスに行くと告げらる 賀詞交換今年限りにして欲しと賀状…

赤とんぼ

数日間隔離生活続くとぞインフルエンザに罹りたるゆゑ 一昼夜熱に魘されゐたる友ストレッチャーに運ばれてゆく 赤とんぼハミングすれば胸熱し母に会ひたくなりて候 まつたりと夢見心地の君を見てわれもまどろむ午後のベンチに へルパーの介助に成りしこの帰…

それなのに

柿若葉かえるで若葉樟若葉街にそれぞれみどり主張す そよ風に吹かれつつ汝と聴かむとす若葉の森の朝の囀り 諸樹々が新緑交響曲奏でをり五月四日のここ豊明に 頻尿は加齢によると告げられて四年九ケ月の治療終りぬ 便りなきゆゑ健康と決めつけて母に電話せず…

遠回り

利き足の右足に漕ぐ車椅子どろんと重し雨降るけさは 道ひとつ遠回りして帰らうか黒き揚羽の導くままに 施設での暮し即ち堕落なり 自立生活者Mの持論は 去り際にMは言ひたり 逃げ腰の人生だけは送るな、博美 夕風のすずしき庭にハーモニカ吹きをり視力失ひ…

マンドリン聴く

なま温き師走の夜や夏蒲団一枚かけてさあ寝ませうか 職員みなマスクに顔を覆ひつつここの施設の冬が始まる 流感の予防接をけふ終へてここの施設の冬が始まる うた詠むは言葉の遊びさうだらうもつと気楽に呟けばいい 奪はれし魂なのか にしぞらにかみふうせん…

宙ぶらりん

亡き父が見てゐるやうな長者町後ろの正面だあれもゐない 右耳がほろほろ痒き夕まぐれ桃の匂ひの膝枕恋ふ 聞ゆるは波音ばかり君と吾と野間のなぎさに仰ぐ星空 好きだけど恋人といふ束縛は嫌とのメール 俺、宙ぶらりん 江ノ電の揺れ心地よし街抜けて稲村ケ崎の…

さう言へば

生きてゐる証しと寧ろよろこびぬ目覚まし時計のごとき腰痛 年長のルームメイトの寝息聞えつくづく寂し寒露の夜更け Nさんに十年ぶりに逢ひたくてメールを送るただ逢ひたくて 逢ひたしとメールを送るまんまるの君の笑顔を思ひ浮べて さう言へばきのふが母の…