虚々実々徒然草

五十代半ばの男性車椅子生活者の日記です。

風の咆哮

何もせずけふを過してしまひたるわれを叱るか風の咆哮

女好き優柔不断の性格をもてあましつつけふも生きゆく

きのふより青まばゆしと元日の空眺めをり頬寄せ合ひて

穏やかに年迎へたるめでたさを分ち合はむと母に電話す

妹がしたためくれし嘉の一字その筆勢は自由奔放

覚め際の夢不思議なり麻痺解けて自由自在に水中泳ぐ

行に乗りて雪積む越後路をひとり旅する暁の夢

三年前の『正月』の『短歌』作品です。如何。

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勇猛果敢

あすはまたあすの幸せ来るはずよ夕焼け空を見つつ君言ふ

優しくて勇猛果敢のわれをらむひろき宇宙のどこかの星に

夢に来て電話番号教へ呉れしロシア乙女よ名はカトリーナ

車椅子を汝が押し呉れてさ緑の風吹き渡る犬山をゆく 

二十日ぶりに昼を雨降る諸木々にボレロのやうに昼を雨降る

おそらくは死の間際まで詠むだらう優柔不断の己の歌を

初雪の頃によき人あらはれて結ばれさうとふと湧く予感

五年以上前の『短歌』作品です。如何。

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夢の御告げ

酒酌みて人生論を闘はす十年ぶりに会ひたる友と

施設での叶はぬ恋を告白す幼馴染の友と飲みつつ

旧友も胡麻塩頭となりにけりすぐそこにまで迫る五十代
新しき歌集作れとけふもまた師は言ひ賜ふぜひ挑みたし

九月より大晦日までモテ期とぞ夢の御告げを信じてみむか

帰省して母の愚痴聞くそのことが幸せなりと思ふ麻痺われ

明日逢ふを君と約せりその明日が必ず来ると疑ひもせず

五年前の『短歌』作品です。如何。

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はないちもんめ

憎しみを生むばかりなる戦ひを支援するなど以ての外だ

二メートル隔て互みに雨を見る 和解の言葉いつ掛けやうか

あんたなんか下の下の男それなのに何か気になる はないちもんめ

きのふ夜叉、けふは子猫のやうな汝れ 千変万化をむしろ愉しむ

Tシャツの汝が腕の白まぶしもよわがめぐりなるをみなの誰より

ハイボールに酔うて候車椅子足に漕ぎつつ右往左往す

うつつとも夢とも分かず梅雨の夜の闇天井に眼が現れつ

昨年の夏の『短歌』作品です。如何。

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人造の闇

行き先は夏の港ぞ人造の闇突つ走る列車に揺られ

人造の闇に轟き止まずして港に向ふわれが列車は

地下鉄に約十五分揺られつつどちらが北か分らなくなる

名古屋港ガーデン埠頭に汝れと来て胸深く吸ふあをき潮風

アクアリウムチャップリンなり飄々と大水槽を泳ぐ翻車魚

渇水の湖いくつ土石流犠牲者生みて梅雨深みゆく

泥水に溺れてゐたりこんな夢現実にゆめ起きないでくれ

上記の『短歌』作品は、二年前の初夏に作ったものです。如何。

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夕潮にほふ

けふもまた体温超えの暑さなり雨足らぬまま梅雨明けて、夏

ひとしづくまたひとしづく肩に落つ車椅子押すヘルパーの汗

シキソクゼクウクウソクゼシキ地下鉄の向ひの席のま乙女の腿

麻痺の吾も一票投ずヘルパーの友がひた推す女性候補

奢るからビアガーデンについて来な 三年ぶりに会ひしK言ふ

おそ夏の上野間駅や対向の列車待つ間を夕潮にほふ

穏しかる電車の揺れに委ねつつつひに眠りへ落ちゆかむとす

これらは四年前の『短歌』作品です。如何。

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人生樹海

ねむりへと連れ戻さるる抑揚ぞN介護士のモーニングコール

父逝きて七度目の夏迎へつつ人生樹海さまよふばかり

ちちのみの彼岸の父よこれからのわれが航路を御示し給へ

願はくば酒酌み交し亡き父と人生論を語り明かさむ

どしや降りの石くれ道を迷ひつつ迷ひつつ意識薄れゆく夢

ハナミズキ」聴けば涙がこぼれ来てつくづく感ず齢五十を

杖代りにわが車椅子押させてと母はささやく傘寿の母は

四年前の夏の『短歌』作品です。如何。

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堂々巡り

堕天使か痴女か天女か短夜の夢に現れ手招く女人

十日後に逢ふを約せりNさんと三年ぶりに逢ふを約せり

君と逢ふその悦びに眠られず三時ああ四時また寝返りす

母校へと向はむとして迷ひつつ堂々巡りの暁の夢

約束の場所に君来ず五分過ぎまた十分と時ゆくばかり

はつ夏のひかりのやうな笑顔なり三年ぶりに逢ひたる君は

似合ふわと赤きTシャツ選び呉れつ主婦歴二十年姐御肌の君

五年前の夏の『短歌』作品です。如何。

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白き雲

白き雲空にぽよんと浮びつつ無性に眠し立冬の午後

五十歳の吾はまだ信ず相性のぴつたりと合ふ女性がゐると

相次ぎてふたりの姉を亡くしたる寂しさをまた呟ける母

あすもまた新たな出会ひがあるだらうそれを信じてさあ眠らうか

宇宙には地球そつくりの星在りてわれそつくりのいのちもをらむ

「今晩もあなたと夢で逢ひたいわ」君のメールに元気を貰ふ

霜月の日暮れせつなし豆腐屋の喇叭の音が聞きたくなりぬ

五十歳の『晩秋』の『短歌』作品です。『彼女(妻)』を『友人』のひとりとして付き合っていた『時期』です。如何。

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城山の樹々

城山の樹々の緑の眩しもよ木曽川よりの風を受けつつ

脳内に居座る鬱が消えてゆく木曽川よりの風に吹かれて

われといふ摩訶不思議なる多面体けふは歌詠み啓美に候

午前二時襲ふ尿意に目覚めたり介護士を待つ長き長き五分

歌詠みが一首も詠まず床に就く雨のきのふも快晴けふも

いつまでも若くはないぞ水面の胡麻塩頭のわれが吾に言ふ

水無月の雨に想ほゆばあちやんのつぶ餡入りの大蓬餅

三年まえの『初夏』の頃の『短歌』作品です。如何。

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