月の冴ゆ
中天に蒼皓々と月の冴ゆ恋失ひし彼の夜の如く
常滑の路地裏巡る一頭の青すぢ揚羽に導かれつつ
このカフェの丁髷姿のまねき猫 柴山庄山わが伯父の作
八十二歳あした迎ふるおふくろに何贈らむと迷ふ愉しさ
誕生日に靴下贈る繰り返し脚冷えるのと愚痴言ふ母に
ヘルパーを頼みて知多へ向ふなり八十二歳の母に会はむと
おふくろよ遠慮なさらずこの俺に日頃の愚痴を言ひて下され
八十二歳?違ふのけふより二十八よ 声朗らかにジョーク言ふ母
啓美から靴下貰ひ嬉しいよ 一期一会の母のほほ笑み
いつまでも手を振る母よ鳶色のシルバーカーに身を委ねつつ
車椅子を遊具のやうに乗り回す福祉学べる小学生は
麻痺の吾は子らに説きたり車椅子は唯一無二の足そのものと
これらの『短歌』は、昨年の秋に詠んだものです。如何。
マンドリン聴く
なま温き師走の夜や夏蒲団一枚かけてさあ寝ませうか
職員みなマスクに顔を覆ひつつここの施設の冬が始まる
流感の予防接をけふ終へてここの施設の冬が始まる
うた詠むは言葉の遊びさうだらうもつと気楽に呟けばいい
奪はれし魂なのか にしぞらにかみふうせんのやうな残月
友からの喪中葉書が卓にあり啓の一字が雨に滲みて
天国に召されし友の幾たりを住所録より消して立冬
雑念の塊で良し偽らず己がこころを歌に託さむ
君も吾も眠りの神の臣下なり小春日和の午後のひととき
「不愉快な思ひをさせてごめんね」とまづ君に言ひけふが始まる
ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年
快きプレッシャーなり歌友らの賀状の多く「良き歌詠め」と
産土に歌詠みわれは誓ひたり己が心に素直に詠むと
初春から縁起良きかな吾が引きし御籤に大願成就とあるは
ぽち袋麻痺のわが手に握らせつ八十歳を越えたる伯母は
帰省せしわれに聞かすとマンドリン姪が弾くなり正座して聴く
マンドリンに姪が弾くなる「異邦人」口遊みつつ愉し正月
最高の正月三日ぞま乙女の姪が弾きゐるマンドリン聴く
最近の作品と五年程前の作品です。如何。