虚々実々徒然草

五十代半ばの男性車椅子生活者の日記です。

法子さん

歌詠むに倦みたりそんなおいらにはネット動画といふ逃げ場ある

車椅子の五人のわれら冬陽浴みいつかおぼろになりゆく会話

豆腐屋の喇叭聞えて来さうなり霜月六日の夕あかね空

しづけさや伊自良の里の汝が家の縁を移ろふわた雲の影

この秋に傘寿迎へし母が言ふ施設を出るな出て苦しむな

法子さん、お元気ですか?凩が庭の楓を虐めてゐます

施設といふ枷を自ら解き放せ けふも来て説く旧友のY

これらの『短歌』作品は、三年前の晩秋の作です。如何。

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月の冴ゆ

中天に蒼皓々と月の冴ゆ恋失ひし彼の夜の如く

常滑の路地裏巡る一頭の青すぢ揚羽に導かれつつ

このカフェの丁髷姿のまねき猫 柴山庄山わが伯父の作

八十二歳あした迎ふるおふくろに何贈らむと迷ふ愉しさ

誕生日に靴下贈る繰り返し脚冷えるのと愚痴言ふ母に

ヘルパーを頼みて知多へ向ふなり八十二歳の母に会はむと

おふくろよ遠慮なさらずこの俺に日頃の愚痴を言ひて下され

八十二歳?違ふのけふより二十八よ 声朗らかにジョーク言ふ母

啓美から靴下貰ひ嬉しいよ 一期一会の母のほほ笑み

いつまでも手を振る母よ鳶色のシルバーカーに身を委ねつつ

車椅子を遊具のやうに乗り回す福祉学べる小学生は

麻痺の吾は子らに説きたり車椅子は唯一無二の足そのものと

これらの『短歌』は、昨年の秋に詠んだものです。如何。

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宵宮囃子

あさつては氏神様の祭礼か木犀の香にふとふと思ふ

秋雨の降りゐる午後を電話すもけふ八十を迎へし母に

村祭りに来よと電話に母言ひて 茹で豆・搔揚げ・寿司の団欒

産土の宵宮囃子聞きにけりひと月ぶりの母の電話に

ぎこちなくわが車椅子押し呉れつ福祉学ぶとはにかめる甥

わが言葉幾度も幾度も聴き返しトイレ介助をしてくるる甥

二の腕のほれぼれ太し率先しわれの介助をしてくるる甥

これらの『短歌』は、三年前の故郷の『秋祭り』の折りの『作品』です。

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初電話

旧友は自立促すこれからがわが青春と思へば良いと

自立への意志強く持てまず動け 熱く熱く説く旧友Yは

自力では入浴できなくなりし母デイサービスの利用決めたり

初電話に母の声聴く次週よりデイサービスに行くと告げらる

賀詞交換今年限りにして欲しと賀状いただく喜寿の友より

筆咥へ「一日一首」大書せり斯くささやかなわが心意気

ノロウィルスここの施設に侵入しけふまた三部屋隔離されたり

これらの『短歌』作品は三年前の作です。如何。

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赤とんぼ

数日間隔離生活続くとぞインフルエンザに罹りたるゆゑ

一昼夜熱に魘されゐたる友ストレッチャーに運ばれてゆく

赤とんぼハミングすれば胸熱し母に会ひたくなりて候

まつたりと夢見心地の君を見てわれもまどろむ午後のベンチに

へルパーの介助に成りしこの帰省来年もまたお願ひします

三十分置きに尿意を覚えたり働き過ぎのわれの膀胱

君も吾もかの日のやうに熱く熱く愛紡ぎ合ふ孤り寝の夢

これらの短歌は一昨年の秋ごろの作品です。如何。

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それなのに

柿若葉かえるで若葉樟若葉街にそれぞれみどり主張す

そよ風に吹かれつつ汝と聴かむとす若葉の森の朝の囀り

諸樹々が新緑交響曲奏でをり五月四日のここ豊明に

頻尿は加齢によると告げられて四年九ケ月の治療終りぬ

便りなきゆゑ健康と決めつけて母に電話せず過ぎし母の日

のほほんとただのほほんと日を送りああそれなのに白髪は殖ゆ

ちちははと楽しみて見し笑点がけふも始まる 始まるよ母さん

昨年の五月の作品です。如何。

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遠回り

利き足の右足に漕ぐ車椅子どろんと重し雨降るけさは

道ひとつ遠回りして帰らうか黒き揚羽の導くままに

施設での暮し即ち堕落なり 自立生活者Mの持論は

去り際にMは言ひたり 逃げ腰の人生だけは送るな、博美

夕風のすずしき庭にハーモニカ吹きをり視力失ひし友

柿の葉のみどりまばゆき五月来てなほもはびこる脳内の鬱

あつけらかんと空が眩しいこんな日はマリンブルーの恋生れさう

おはようございます。きょうも、張り切って、生きましょう!

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マンドリン聴く

なま温き師走の夜や夏蒲団一枚かけてさあ寝ませうか

職員みなマスクに顔を覆ひつつここの施設の冬が始まる

流感の予防接をけふ終へてここの施設の冬が始まる

うた詠むは言葉の遊びさうだらうもつと気楽に呟けばいい

奪はれし魂なのか にしぞらにかみふうせんのやうな残月

友からの喪中葉書が卓にあり啓の一字が雨に滲みて

天国に召されし友の幾たりを住所録より消して立冬

雑念の塊で良し偽らず己がこころを歌に託さむ

君も吾も眠りの神の臣下なり小春日和の午後のひととき

「不愉快な思ひをさせてごめんね」とまづ君に言ひけふが始まる

ひんがしの空に眉月浮びつつ暮れゆかむとす凶多き年

快きプレッシャーなり歌友らの賀状の多く「良き歌詠め」と

産土に歌詠みわれは誓ひたり己が心に素直に詠むと

初春から縁起良きかな吾が引きし御籤に大願成就とあるは

ぽち袋麻痺のわが手に握らせつ八十歳を越えたる伯母は

帰省せしわれに聞かすとマンドリン姪が弾くなり正座して聴く

マンドリンに姪が弾くなる「異邦人」口遊みつつ愉し正月

最高の正月三日ぞま乙女の姪が弾きゐるマンドリン聴く

最近の作品と五年程前の作品です。如何。

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宙ぶらりん

亡き父が見てゐるやうな長者町後ろの正面だあれもゐない

右耳がほろほろ痒き夕まぐれ桃の匂ひの膝枕恋ふ

聞ゆるは波音ばかり君と吾と野間のなぎさに仰ぐ星空

好きだけど恋人といふ束縛は嫌とのメール 俺、宙ぶらりん

江ノ電の揺れ心地よし街抜けて稲村ケ崎の海のきらめき

拭へども拭へどもなほまとひ付くスライムのやうな名古屋の暑さ

おふくろよ達者でゐるか三月に知多に帰りてそれつきり、梅雨

昨年の梅雨の時期、『彼女(妻)』との『関係』が少しぎくしゃくしていた頃の作品です。如何。

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さう言へば

生きてゐる証しと寧ろよろこびぬ目覚まし時計のごとき腰痛

年長のルームメイトの寝息聞えつくづく寂し寒露の夜更け

Nさんに十年ぶりに逢ひたくてメールを送るただ逢ひたくて

逢ひたしとメールを送るまんまるの君の笑顔を思ひ浮べて

う言へばきのふが母の誕生日何も贈れず母さんごめん

木犀の香に思ひ出づ産土の八幡神社の秋祭りけふ

十超ゆる迷惑メールに混りつつけさ見つけたりNさんの名を

上記の『短歌』七首は五年前の秋の作品です。如何。

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